アート&サイエンスコース
2020.02.20.Thu
昨日(19日)の午後、非常に単純化した実験総装置を用いて、実験系の構築を目指す実験に着手しました。該当生徒は藤原優月くん(1年)で、昨年の12月に徳島大学の石井農場へ行き、コオロギの養殖施設を見学してきました。その際、見せて戴いたのが電気(衣類)乾燥機で飼育室の湿度調整をしていた現場です。
私たちの飼育規模では電気乾燥機が不向きであるため最近、日常生活で普及している珪藻土グッズを用いて乾燥させてみたところ、飼育容器内でカビやダニの発生を幾分か抑制する効果が期待できました。しかし、定量的にどの程度の効果があるのか確認できないため、調湿効果とカビ・ダニ発生の関係を確かめる実験系を構築することを検討してみることにしました。
ここで言う実験系の構築とは、比較的単純な要素を組み合わせた装置を用いて実験を行った時に適度な数値データが得られるように実験条件を調整して行く作業のことです。この実験系の中で最終的にカビの胞子を散布した寒天培地を置いて湿度の差がカビの生育に及ぼす影響を比較する狙いがあります(カビの菌糸を摂食するコナダニの発生も評価対象になり得ます)。しかし、最初に条件を最適化しておく必要があります。
先ず実験容器として、カメラや交換レンズを補完する樹脂製のドライボックス(除湿庫)を2セット分、用意し、川砂を底に厚さ2~3cmになるよう敷きました。デジタル温度湿度計(ThermProTP-49)を4個分購入し、機器の個体差を排除するため同一の測定値を表示する2個のみ、この実験に供しました。
容器を密閉したことで砂に含まれていた水分が空気中に拡散し、湿度計が飽和状態(99%)を示すことが分かりました。従って、砂を強制ないし自然乾燥してある程度、含水率を落としておく前処理が必要だと思われます。実験の狙いによっては、前処理した砂層に一定量の水分を与えることも可能である。ここで砂層は、湿度(humidity)を供給する供給源 "source"となります。そして飼育容器の気相がプール "pool" と認識され、この気相の湿気を奪い取る役割が、珪藻土のプレートでシンク "sink" として認識できます。
コオロギのメスは砂層に産卵管を刺し込み、楕円形の卵を産卵します。砂の湿気が足りないと受精卵も乾燥し始め、発生(表面の卵割)が停止してしまいます。こうなると、繁殖は失敗ですので砂層を湿らせる霧吹き操作は必要ですが、気相の湿度が過剰過ぎると、生息環境でカビ(糸状菌)が発生し、それを餌にするコナダニが追随して発生してきます。ダニの密度が高過ぎると、コオロギの若齢幼虫(ピンヘッド)がダニで覆われて衰弱してしまうので、調湿操作が必要になりました。
具体的には、砂層の湿度の差がカビの発生量に影響し、餌の存在量がダニの生息密度を規定するだろうと予想されます。この実験系の中で相互関係を明らかにするために、先ず実験条件を最適化しておく準備が必要になりました。ここで、実験装置を構成する要素を各々、source、pool、sinkと概念づけておくと、個々の測定値に振り回されず本質が掴め、どう修正して行けば良いのかの全体像が見えやすくなります。これが、実験系を抽象化(=一般化)して行くことの利点です。
そのような学びは、大学に行ってからで十分と言う意見も出そうです。が、抽象思考の訓練については、平易な素材で身に着けておいて損ではありません。「具象」と「抽象」との間を行き来するセンス獲得の実践が、高等教育へ入って行くための準備と言えるます。高校教育課程も学習意欲を喚起する意味では、試験で客観評価するのに都合が良い「知識付与と確認」の一辺倒でなく「方法論の教授法」を開拓すべき時期かと思います(文責:教育デザイン室長・竹内 準一)。
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画像・上段左:1対の容器(防湿ケース)に川砂(市販品)を敷く、同・上段中:デジタル温度湿度計(4個体を購入し、個体ごとの応答特性を比較)、同・上段右:川砂を投入中の藤原優月くん(1年)、同・下段左:密閉状態にすると、砂が保持していた水分で湿度が飽和状態(99%)になることを確認、同・下段右:湿度を取り除くための珪藻土プレート(50℃の恒温器に入れ、アクティベート*1させた)
*1 珪藻土の中にある微細間隙中に取り込まれた水分を追い出す乾燥化(=リセット)の工程である。
付記:今回のような実験系の構築という作業では、遠方からの通学者が逐次、従事することはロスが大きいため、実験のスタートアップだけ立ち会って貰い、その後のフォローアップは遠隔のまま実技指導した方が、具象を一旦、離れる*2ことで抽象思考を鍛える面でも、学習効率が高くなる可能性がある。
*2 パターン化した問題練習するタイプの受験勉強に触れてしまった生徒ほど、"学びの作業化"が起こり、思考が硬直化していくマイナス面が否めない。遠隔指導という選択は、その対策を兼ねることになる。
付記:生徒の嗜好が「具象(実践)向き」か「抽象(思考)向き」かの識別は、生徒を進路指導していく上で、極めて大切なポイントとなる。これは優劣の問題ではないのだが、日本では受験偏差値という一軸評価が過去40年間も放置されてきてしまったため、教育問題は生徒の両親も巻き込んだ二世代化してきている。例えば、熱帯魚が好きで子供がブリーダーになることに興味があり、適性もあるのに、親が子供を高等教育に向いていると錯覚してしまうようなケースもある(稀に、さかなクンのように趣味が高じて、研究まで到達してしまう例もあるが・・)。私の目から見ても、ホントに魚のことを知っているのは果たして大学教授なのか、漁師さんなのか、はたまた養殖現場にいる担当者なのか、水族館の飼育係なのか、何とも言い難い側面があります。私自身、元東京都水道局の"水の神様"との異名をとる故・小島貞男先生の存在を知って以来、大学教授が何でも知っていると安易に即断することに、私は戸惑いを感じるようになりました。それゆえ私自身は、役職(包装紙)でなく人物(中身)にフォーカスして人を見ます。
私自身も、東京都に15年間(最後の2年間、東京都下水道局からのJICA専門家派遣)奉職し、小島先生の教えに従って実務現場で具体を学びつつ、学会で研究発表して抽象度を高め、50歳で博士の学位取得*3へ持って行った経験があります。夢さえ持ち続ければ、その先は何とか道は拓けるものだとお伝えしたい。ただし、「口で夢を語れること」と、「夢を具現化すること」とは余りにもかけ離れた世界です。これは安直な「甘え」の気持ちを排し、ひとり一人で(一攫千金の白昼夢を見ずに)地道に体得して行って貰うしかありません(竹内記)。
*3 1997年頃の仙台で開催された学会後の懇親会だったかと記憶します。私はある実務研究者(阪大博士)から、「今日と言う今日は、オマエにどうしても言っておかなければならないコトがある!」と絡まれるように説教されたコトがありました。「おぉ、怖っ!」と思って聞いていると、「オマエにとっちゃな、博士号なんざ、足の裏についた米粒ぐらいにしか見えんだろ?」と続き、その後に続く言葉に泣けてきました。「オマエがな、言っているコトは全部、正しい。だからオマエは博士号を取らないと、イカンのだよ!」と。人生で、こんな嬉しい説教があるとは、夢にも思いませんでした。堺好雄さん、今はどこで、何をしているか、酒好きだったゆえに少し心配です。今さらながらですが、私へのお説教をありがとう。
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を置く広域通信制高校です。
どんなタイプの方でも、安心して学習し卒業できるシステムを構築し、生徒一人ひとりのライフスタイルに合った"学び"を提供しております。
「登校してしっかり学ぶ」「友達を作って学校生活を楽しむ」という学校が多い中、最短年4日の登校で高卒資格が取れる学校は多くはありません。
一方で本当に高卒資格が取りたくても、仕事が忙しくて登校できない、子育てで手が離せないなど様々な事情で、学校に行きたくても行けない方がたくさん居るのも事実です。
ルネサンス高校はそういった方のニーズに答えるために生徒に負担のかからない授業やレポートシステムを作り、14年経ちました。卒業生も約15,000名となります。
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