アート&サイエンスコース
2016.11.28.Mon
皆さんは、大学や研究所が行う研究が一流と思っていますよね。高価な装置を用いて高水準な研究を進めている点では、立派です。しかし、だからと言って、それが直ちに「探究マインド」をフル稼働している状態とは限りません。往々にして大学に相応しい高水準、高価な機器を活かすという名目のため手法も固定化され、発想が豊かになる理想からは、むしろ遠のくうらみがあります。先日の大阪府の生徒研究発表会でも、系列の大学と連携し高価な機器(定量PCR)を導入した研究と自分たちで編み出して外洋と内湾の海況の差を海中に吊るした飴玉の減耗率で評価した市立高の例など、実に好対照でした。予算や機材に乏しければ、"飴玉"で勝負に出ることも高校生なればこそアリなのです。
だから私は高校時代こそ探究力を磨くべき時期であり、むしろ大学や大学院へ行ってからでは手遅れであると常々、考えてきました。だから高専教授を辞して高校へ、それも日常の授業や試験に心を乱されないで済み、発達障害の裏面である天才性に着目し、強制的な学びを廃し、通信制高校の通学課程で理想の教育を実現したかったのです。一流進学校、中高一貫校、IB認定校、オルタナティブ・スクールと数多のライバル校がひしめき合いますが、ここで想いの丈の社会実験を進めたいと挑戦しています。朝、起きられない_毎日、登校できない_課題が終わらない_等々。上等ですよ。私はロボットのような人間を作る気も、相手にする気もありません。私が一度足りとも「知らないからダメ」とか「できないからダメ」とか口にしたことがありますか? 逆です。知らなくて結構_できなくて結構_だからこそ教育機関の指導教員です。皆は、無限の"伸び代"があるんです。違いますか?
先週の金曜日、私は河脇凌くん(2年生)と猪名川上流へ河川水を採取に行きました。彼の探究課題は、"Colpoda" という乾いても死なない小さな単細胞生物です。条件が悪くなるとシストという殻に化けて休眠してしまいます。ゾウリムシの培養中にミスを犯して偶然、藁の煮出し汁から見つけました。どのように干し藁に付着するに至ったのか、どうしてバイオフィルムに休眠体のシストが取り込まれるのか謎は尽きませんでした。が、ゾウリムシがいると競争から脱落してしまう脆弱さがあるので、競争相手の少ない河川の上流域を当たることにしました。現地で河床に目をやると岸辺の浅い、流れの弱い場所があり、そこに緑藻が溜まっている状態が目に留りました。私は河川水だけでなく、その緑藻の他、石、落葉も一緒に採集してきて、Colpodaの所在を突き止めることにしたのです。
自分の課題を前して「何だろう?」とか「なぜだろう?」という好奇心が湧き出ることが、学びの出発点です。普通の学校教育には、この要素に欠けています。所詮、解答が決まっている問題で正解したところで、"かくれんぼ"ごっこと何処が違うのでしょう。それを学力だなんて、誰がどう定義したのでしょう。採点がラクで、序列化がラクだっただけのはずです。あいにくと生徒はおろか、教員も成長できません。高校生は人生最大の成長期にあります。大人の都合で犠牲にすべきでありません。
当初、教員が手解きする必要はあります。でも、彼らは直ぐ、真似を始めるます。私は水質のキレイな川底の石、浅い淀み部の緑藻の塊、岸辺の落葉を採集してきました。Colpodaがいるとしたら、競争相手が少ない河川水中の、流れの中にあって流されてしまわない場所で生きているか、または休眠状態にいるはずと睨んだのです(このセンスは、名探偵シャーロック・ホームズに近い心境です)。
果たして、Colpoda類似の生き物は緑藻アオミドロの糸状の藻体の上をリニア・モーターカーのように滑るように動き回っていました(1日目の動画)。それが、自然界から流れのない容器に移すと、他の遅れて発生してきた微生物に追いやられてしまいました(2日目の動画)。つまり、流れがある場所で唯一、Colpoda様の虫体だけがアオミドロに随伴していました。恐らく他の微生物は流れに押し流されてしまうのでしょう。なぜColpodaだけが、アオミドロの上で滑り台でもするように居残れたのかは依然として謎です。しかし、Colpodaには環境中で有利に生き残る仕組みをシストとして乾燥に耐える能力だけでなく水流に流されないカラクリ(例えば、アオミドロが分泌する成分を利用する等)を備えていた可能性が考えられます。まだ、解くべき謎は残っています。が、こんなワクワクすることはありません。そこに人が自らの力で成長していく手応えがあるから自信になるのです。
探究学習は一旦、会得したら無尽蔵です。楽しい境地です(文責:教育デザイン室長・竹内 準一)。
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画像・左:理科室のホワイトボードを前にディスカッションするサイエンスコース2年生(左:河脇凌くん、右:岩田祐樹くん)、同・中:流れがあった河川水を容器に詰めたこと("止水化"圧)で生じる生物群集の変化(検鏡すると、ツリガネムシVなど自由遊泳型の原生動物やワムシ、糸状性細菌Fが増え、アオミドロSも環境悪化に伴い接合胞子を形成)、同・右:寒天を敷き詰めたタッパーに緑藻や落葉を敷き、乾燥-湿潤(drying and rewetting)サイクルを人為的に加え、Colpodaのシスト形成-脱シストが発現するか否かを判定する(現在進行中)。
付記:探究学習は、大学レベルの学術研究のプロトタイプです。難しそうでいて、教員と生徒が一丸となって自分たちが未知の問いに立ち向かう感覚です。決して「教える-教わる」関係は固定していません。教員が間違えて、生徒の意見が正しかったシーンは枚挙にいとまがありません。だから、生徒が教員を乗り越えて成長し続けていけるのです。誰にでも可能なだけでなく一生、役立ちます。
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ルネサンス高等学校 (大子校)
2021.03.02.Tue
ルネサンス高等学校 (大子校)
ルネサンス高等学校グループは、全国に3校(茨城、愛知、
大阪)、連携キャンパス及び受付・相談センター(東京・新宿代々木、神奈川・横浜、愛知・豊田、名古屋、大阪・梅田、広島、福岡)
を置く広域通信制高校です。
どんなタイプの方でも、安心して学習し卒業できるシステムを構築し、生徒一人ひとりのライフスタイルに合った"学び"を提供しております。
「登校してしっかり学ぶ」「友達を作って学校生活を楽しむ」という学校が多い中、最短年4日の登校で高卒資格が取れる学校は多くはありません。
一方で本当に高卒資格が取りたくても、仕事が忙しくて登校できない、子育てで手が離せないなど様々な事情で、学校に行きたくても行けない方がたくさん居るのも事実です。
ルネサンス高校はそういった方のニーズに答えるために生徒に負担のかからない授業やレポートシステムを作り、14年経ちました。卒業生も約15,000名となります。
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