アート&サイエンスコース
2020.05.11.Mon
コロナ禍を受けて今、理科室で上記の寄生虫感染の履歴のある飼育水槽に3対のグッピーを放流する実験・観察を5月3日(日)から継続しています。その結果、6日(水)までにメスが1尾、感染し死にました。しかし、その後は感染は顕在化せず、今日まで平穏さを保っています。生き物の世界って、不思議がイッパイですね。
餌の食いも良く、遊泳も正常でしたが、捕獲して隔離し、実体顕微鏡下で観察すると体側にギロダクチルス(扁形動物・単生類)が2、3匹付着していました。ギロダクチルスは鉤で魚体に付着し、吻からタンパク分解酵素を分泌し、魚肉を溶かし体液を吸います。ギロダクチルスに穿孔された傷口からキロドネラ(原生動物・繊毛類)が出入りしている模様です。遊泳中の当該メス個体を観察すると、体表が膨らんでいる様子が目視できました(画像・上段中、矢印で表記)。
キロドネラは前回、赤血球を貪食するほど強毒化した状態で出現しましたので、その子孫が何らかの休眠状態(シストと推定)で水槽内に潜伏し、目を醒ましたギロダクチルス(耐久卵から発生と推定)が先に穴を開け、そこへ大量のキロドネラが襲いかかった状況だったのだろうと推定されます。ギロダクチルスに対する駆虫効果を持つフィコシアニン(ガリガリ君ブルーの天然色素)は用意してありましたが、あいにく大量に襲いかかるキロドネラを抑止する効果は全くありませんでした。原生動物のキロドネラの対策には別途、強い薬効のある候補を探しておく必要性を痛感しました。
前報した通り、3日目にはメスが産仔していたことが解かっていますが、この感染を受けたメス個体が子孫を残すため予定より早めに産んだ可能性もあります。その場合、寄生虫に対し免疫抗体を大急ぎで創り出した可能性*1も期待できます。魚類も獲得免疫(acquired immunity)を持つことが報告されています。
*1 体制が複雑な哺乳類では、短期間で抗体価があがることは考えられません(2週間を要する)が、魚類で卵胎生(母体内で発生が始まっている)のグッピーは特殊なのかも知れません。
なお、集団が繰り返し感染を受けることを通じて免疫力が強化され、感染した時期に生まれた仔魚も免疫力を備えている可能性が期待できます。この作用機序が、新型コロナウイルス(covid-19)と同じだとは言いませんが、感染症に対して免疫力を獲得していく原理原則は少なからず共通していると思われます。高校の理科室で大した経費も掛けず、このレベルの議論が本来、可能であることをご理解戴ければ幸いです。
新規投入した6匹のうちメス1匹が今回、犠牲にはなりましたが、残りの5匹の成魚と仔魚が約10尾ほど増えています。2種類の寄生虫も潜んでいるはずなのですが、今のところ鳴りを潜めています。1匹が犠牲になったことで、警戒して行動し弱く感染して免疫系を発達させてきた可能性もあり、次世代を含めた集団免疫を獲得してきた可能性も期待しています。
水草から発生したサカマキガイも水槽内で再生産され、個体群のサイズも大きくなってきました。一斉に砂面、ガラス壁面、水草表面を匍匐しながら生物膜を歯舌でモグモグと削ぎ取っています。2群の寄生虫の休眠体は耐久卵やシスト(嚢胞)と思われますが通常、水中に懸濁していると言うより底面・壁面・水草の葉または茎面に固着していると思われます。巻貝に捕食されてしまうのか、巻貝の中に棲みつく*2のか真相は定かではありません。が、当該水槽中で寄生虫は制圧されて行くのではないかと推察できます。
*2 巻貝サカマキガイの(中腸腺)中に寄生虫が棲みつくか否かは、いずれ巻貝とグッピー個体群を濃密に接触させる実験をしてみることで、寄生虫群が誘き出されるか否かを確認することができます。獲得免疫を持たない新規の個体であれば、ハッキリとすると思います。
些細な実験系でも、ニュースで話題となるパラサイトによる感染と免疫応答に関する議論が成り立つことが明らかです。これが、高校課程が持つポテンシャルなのです(文責:教育デザイン室長・竹内 準一)。
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画像・上段左:増えて来た仔魚(矢印)、同・上段中:感染したメス(5月6日死亡;矢印で示した箇所に感染による肥大が目視で確認)、同・上段右:多数のキロドネラ(原虫)が病巣に出入り(青色はフィコシアニンによる着色)、同・下段左:寄生虫の耐久卵かシスト(前回、感染個体を隔離・薬浴した容器から回収)、同・下段右:サカマキガイが旺盛に繁殖中の飼育水槽(寄生虫に対して捕食圧になるか、または巻貝の体内への取り込む可能性も)
付記:前回は水槽を洗浄し、内壁を塩素(漂白剤)で消毒し、砂を丹念に洗えば寄生虫の発生は阻止できるものと思って、失敗してしまいました。何らかの休眠状態で存続していたのだろうと思います。今も寄生虫が大人しくしているだけで、寄生虫が存在していないという保証はありません。地球上の生物進化の"落とし子(共進化の産物)"として常に、寄生虫は絶滅することなくどこかに潜んでいるのだろうと思います。宿主とは常に、隣り合わせに共存しているのかも知れません。
実は、腸炎ビブリオも天然海水中に大人しく常在しているそうですが一旦、ヒトの腸管に入って感染すると、強い毒素を産生し(強毒化)、感染症として拡散する原因となります。日本語では病原菌と寄生虫とでは別のカテゴリーとして扱われがちですが、英語では"寄生生物"という意でパラサイト(parasites)と、一括で括ることができます。ウイルス・細菌・寄生虫では明らかに体制の複雑さや分類群としても異質なのですが、寄生生活を営む点では同列に抽象化でき、宿主が示す免疫応答にも共通点が見られます。言語は、このように上位概念を持つ言語(この場合、日本語より英語)の方に論理思考を進めて行く上で優位性があると見なせます。なぜ英語を含む西欧で科学が生まれ、発達したのか、雨の降り方一つ取り上げてもザァザァとか、シトシトとか多様な表現を駆使できるマンガ・アニメが日本で発達したのか、翻訳では補い切れない事実に肉迫していく学びが本来の語学の学びであり、試験の点数で矮小化できる世界観でもなければ、いかにICT技術が進展しようとも翻訳機ごときで片づく性質の問題でもありますまい。(竹内記)。
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