教育コラム #9 シド・サクソンの「ハグル」で交渉を学ぶ
最終更新日:2023.1.16
長谷川 高士
長谷川 高士
シド・サクソンの「ハグル」で交渉を学ぶ
こんにちは、長谷川です。
教育コラムを書くのが久しぶりになってしまいました。
今回は、プレスクールで行った「ハグル」というゲームを紹介していきたいと思います。
プレスクールというのは、中学3年生向けに行っている高校体験で、来年高校1年生に入ることが決まっている生徒向けに、一緒に入学する生徒同士がちょっと仲良くなるきっかけになってもらうというイベントです。
月に一度程度実施していて、ものづくりをしたり、学校の説明をしたりといったことをしています。このプレスクールでは、生徒たちは必ず参加しないといけないわけではありませんし、その日初めてプレスクールにくる生徒もいます。
このプレスクールの生徒たちに、ゲームを使った講義をしてみたいと用意をしました。ところが、用意していたゲームは、担当の先生から「10人ぐらいと思っていましたが、20人ぐらい来る見込みです」と人数が2倍になったと聞いて、没になりました。
すぐに、20人ぐらいが遊べるゲームを考える必要が出てきました。しかも、制限時間は1時間。ゲームのルールをゆっくり説明して、分からなかった人にフォローを入れるという余裕はなさそうです。当日の欠席も想定したほうがよいということでした。
ゲームの要件、まとめ
- 初めての人もいる
- 生徒数は15名以上20名程度
- 制限時間は1時間
学ぶテーマは、「交渉」とします。
ボードゲームの中でも交渉するゲームは、カードゲームだと「ボーナンザ」などが思い浮かびますが、他の人と積極的に話し合うことが求められます。ボーナンザが3~5人向けでなければ、そうしたかったところです。
さて、積極的に他の人と、「ゲーム」という手段を使ってコミュニケーションをすることは、この初めての人を含む生徒たちにはとても良さそうです。次に、生徒数が多く15~20名程度ということで考えると、ビンゴだとか、先生が中央にいて生徒が自分で何かをするゲームが良さそうです。
ルールはある程度しっかり説明する必要がありますが、1番いいのは、同じゲームをちょっと条件を変えて遊ぶことです。
1度ルールを聞いて遊んでみるとルールはよく分かることが多いです。そこで、少なくとも2度遊ぶ機会があるとよいな、と考えました。
ただし、制限時間があるので、1ゲームにかける時間はできるかぎり少なくしたいところです。
こうした条件を満たす交渉のゲームとして候補にあがったのが、シド・サクソンの「ハグル」でした。
ハグルは、1969年にボードゲーム作家シド・サクソンが「Gamut of Games」に発表したゲームで、この本は日本では2017年に「シドサクソンのゲーム大全」として翻訳が発表されています。
こちらの本の中で、作者のシド・サクソン氏はハグルのことをあまり掲載したくはないが、あまりに愛好家から脅迫めいた言葉で掲載を求められるので、といった断り書きをつけて発表しています。
なお、その際に「ハグル」を掲載した代わりに、気に入らない人はぜひこちらを、と紹介した「ノーゲーム」は日本ではちょっとやりにくいそうなパーティゲームとして紹介されています。
ここの「ハグル」というゲームの特徴は、10人以上で、一度の時間は15分程度です(難しくすれば、1時間かけても面白いと思いますが)。
ルールはかなりシンプルで、お互いに交渉する必要があるため、比較的初めての人でも他の人と話すきっかけになりそうです。
そして最大の特徴は、「ゲームの勝利条件は毎回異なり、制作者に任されている」ということです。
ではどんなゲームかというと、最初にチップと、そのゲームで使う勝利条件に関するメモが2枚ほど入っていて、他の人と情報や、チップを交換していきながら高得点をめざすというものです。
もちろん、自分に配られたカードだけでは全てのルールが分かるわけではないので、他の人と話しながらメモをとっていき、高得点になる組み合わせを考えながら遊ぶことになります。
改めて「シドサクソンのゲーム大全」を読んでみましたが、残念ながらゲームの勝利条件の作り方は書いてありません。
ならば作るしかない、と思い、一週間ほど前にホワイトボードに15の勝利条件を書いてみることにしました。
このうち、チップ(幸い、ポーカーチップを用意できたので、こちらを使うことにしました)の得点を想像できる条件を10個に分けて基本ルールとしました。
次に、高得点や、失点を防ぐ特殊ルールを5つ設定して、15のルールを作成しました。しかし、これでは1回分のルールでしかないため、2回目用の15のルールを用意する必要があります。幸いなことに基本ルールの方は、チップの色を少し変えるだけで対応が可能そうです。
残りの5つの特殊ルールは、よりたくさんの交渉が起きるように、「手元にチップが少ないと高得点」というルールと「手元にたくさんチップがあったほうが高得点」というルールとを混在させて、両極端が起きやすい構成にしました。
2回目のほうが、慣れた人向けになるので、2度目のゲームに設定することにします。
あとは、生徒たちが自分たちで得点を計算できるように、計算シートを用意して、ルールを印刷して封筒にポーカーチップとルールを印刷した画用紙を入れて...と、1時間に収めるための講義準備をしっかりと行いました。
1 |
コイン灰とコイン水は同数で最も多い。 |
---|---|
2 |
コイン紫は1点、コイン黒は2点。 |
3 |
コイン青は1点、コイン水は2点。 |
4 |
コイン灰は0点、コイン赤は3点。 |
5 |
コインの価値は 灰<青<黒。 |
6 |
コインの価値は 紫<水<赤。 |
7 |
コインの価値は 灰<黒<赤。 |
8 |
コイン紫は1点、コイン赤は3点。 |
9 |
コイン青は1点、コイン黒は2点。 |
10 |
コイン灰は0点、コイン赤は3点。 |
1 |
コイン赤を4つ以上持つと、点数は1枚当たり-5点となる。 |
---|---|
2 |
コイン赤・黒・青を揃えると、1セット当たり20点となる。 |
3 |
コイン灰・水・紫を揃えると、1セット当たり10点となる。 |
4 |
コイン灰を4つ以上持つと、点数は1枚当たり5点となる。 |
5 |
コイン赤・水・青を揃えると、1セット当たり-10点となる。 |
※1回目に適用した特殊ルールは、ボードゲームが好きな人向けには「セットコレクション」という考え方に基づいています。
計算シートは、少し特別にカラー印刷にしましたが、あまりこだわらず白黒印刷でもよかったかもしれません。
あとは、ルールを説明するパワーポイントを作って終了です。
ゲームがもたらしている要素は
- 交渉
- 推理、推論 (コイン1枚の価値、特殊なルールの考慮)
- 計算(コインでの得点計算)
といったものです。
当日、15名程度の生徒が集まって、このハグルを遊んでもらいました。
最初は隣の人どうしでの話し合いが始まり、他の知っている人や、知らない人へも話すようになっていって、15分経たずに交換が終わりました。点数計算をしてもらい、次のゲームの準備をしていきます。
1回目と差をつけるため、少しだけ封筒に入れるコインの量をわざと増やしておきました。
1 |
コイン灰とコイン水は同数で最も多い。 |
---|---|
2 |
コインは紫は1点、コイン黒は2点。 |
3 |
コインは赤は1点、コイン青は2点。 |
4 |
コイン灰は3点、コイン水は3点。 |
5 |
コインの価値は 赤<黒<灰。 |
6 |
コインの価値は 紫<青<水。 |
7 |
コインの価値は 紫<灰=水。 |
8 |
コイン紫は1点、コイン青は2点。 |
9 |
コイン赤は1点、コイン水は3点。 |
10 |
コイン灰は3点、コイン黒は2点。 |
1 |
コインを3枚しか持っていないと点数は3倍。 |
---|---|
2 |
コインを1枚しか持っていないと、コインに書かれた点数になる。 |
3 |
コインの色が1色しかないと点数は4倍。 |
4 |
コインを1枚も持っていないとき、最終得点の最も高い人が100点以下だった場合のみ、101点になる。 |
5 |
コインを5枚以上持っていると点数は2倍。 |
※こちらのルールは、コインのやりとりが大きくなるように設計したものです。
さて最後のゲームは、ルールが少しずつ明らかになるにつれて、手元に1枚しか持っていない人や、手元がまったく0になる人、たくさんチップを持つ人に大きく展開が分かれました。
特殊ルール2によって、100と書かれたコインを1枚持っているひとがいて、得点は100。この人だけであれば、特殊ルール4が大逆転をするのですが、もし、特定の特殊ルールを満たすと...100点を越える仕掛けを作っています。
最後は全員に手をまず挙げてもらい、「点数が10点以下の人は手を降ろして...」と点数が低い順に手を降ろしていってもらいます。特殊ルール4を期待して手元に1枚もない人は、いったん手を降ろしてもらって待っておいてもらいます。
100点の時点で、手を挙げていたのは2名。「101点以下の人は手を下げて」というと、100点の人が手を下げ、残ったのは120点を獲得した1名の生徒。これによって、特殊ルール4を期待していた生徒は残念ながら0点になりましたが、最後まで期待して楽しむことができたようです。
担当の先生からも、ふだん、大人数が苦手という生徒さんも楽しく過ごすことができていたと言われ、がんばって作って良かったなという気持ちでした。
このハグルのルールを作っていくという作業は、大勢の生徒がどう動いていくかを予想しながら作っていく、パズルのような要素があって、また機会があったら作ってみたいと思います。
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